品川区の田代義典税理士事務所 税の理(ぜいのことわり)Webサイト
不動産の貸し付けが事業的規模として行われているかどうかの判定がなぜ必要なのでしょうか。それは、不動産の貸し付けが事業的規模で行われている場合には適用があり、事業的規模でない場合には適用がない規定があるためです。この適用がある規定は、納税者にとって税額計算で有利なものであるため、不動産の貸し付けが事業的規模なのか、事業的規模以外なのかの判定はとても重要です。
では、具体的に不動産の貸し付けにおける事業的規模とは、どのようなものなのかを確認しましょう。
所得税法(以下、「所法」とします。)において、事業的規模の定義は明確にされておりませんが、所法27①において次のように規定されています。
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
仕事を分類しただけの業種目の羅列のようで、不動産の貸し付けにおける事業的規模の定義を明確にする直接的な助けにはならないような気がします。
続いて、所得税法基本通達(以下、「所通」とします。)26-9に次のように記載があります。
(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
具体的に物件数が数字で示さて、分かりやすいですね。ご自身が貸し付けている物件をこの通達に当てはめることによって判定が可能です。
さて、ここで判定を終える方が多いように思われますが、本当にそれでいいのでしょうか?例えば、この通達を見て「自分が貸しているアパートには独立した客室が9室しかないから、事業的規模に該当しない」と判断されている方はいらっしゃいませんか?もし、いらっしゃっいましたら、それはもったいないです。
なぜ、もったいないのか?それは、通達には次のように記載されているからです。
建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきである
つまり、通達で数字として示された(1)と(2)は、この基準を満たせば事業的規模としていいよという十分条件を記載しているにすぎず、この基準を満たさなかったとしても、ただちに事業的規模に該当しないと結論を下す必要はないということです。
では、どうするべきなのか?
社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかで判定するのです。しかし、そもそも社会通念が分からないよって方もいらっしゃると思います。私も、自信がありません。法律学小辞典第5版の587頁に社会通念について次の記載があります。
社会で一般的に受け入れられている物の見方・判断。ある事実がある法的要件にあたるか否かの判断について、しばしば参考にされ、ときには決定的判断基準となる。
つまり、端的に「多くの人が当たり前と思っていること」と私は理解しています。そうすると多くの人が当たり前に事業だよねと考える程度の規模の貸し付けが、事業的規模と判定できるということになりますが、やはり曖昧です。平成19年12月4日裁決事例集No.74 37頁に参考となる裁決があります。
裁決を抜粋すると次のとおりです。
事業とは、自己の計算と危険において営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動のことであると一般に解されるが、事業であるか否かの基準は必ずしも明確ではなく、その事業概念は、最終的には社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである。
(1)営利性・有償性の有無
(2)継続性・反復性の有無
(3)自己の危険と計算における事業遂行性の有無
(4)取引に費やした精神的・肉体的労力の程度
(5)人的・物的設備の有無
(6)取引の目的
(7)事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況
などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。
建物賃貸業は、建物の取得、賃借人の募集、賃借人への貸付け及び建物の取壊し・廃棄までが業務の一連の流れであるとされております。(平成28年3月3日裁決、裁決事例集No.102)
当事務所においては、確定申告において不動産の貸し付けを既に事業的規模以外の不動産の貸し付け業務として申告をしている場合においても、依頼者様から建物の賃貸に至るまでの経緯及び現在の貸し付け状況等の聞き取りを通じて、上記裁決事例における(1)から(7)についての検討を行い、事業的規模として判定することができる場合には、その年分以後の確定申告については、依頼者様の了解を得て事業的規模として申告します。
不動産の貸し付けが事業的規模である場合と事業的規模以外である場合で違いがある主な規定は次のとおりです。
(1)利子税の必要経費算入(所法45①二、所得税法施行令97①一)
事業的規模である場合は、一定の利子税を必要経費に算入しますが、事業的規模以外である場合は必要経費に算入できません。
(2)資産損失の必要経費算入(所法51①④、所法72、所得税法基本通達72-1)
例えば、賃貸用固定資産の取壊し等による損失の金額について、事業的規模である場合は全額を無条件で必要経費に算入しますが、事業的規模以外である場合は、災害等によらないものはその損失の金額を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入し(切捨て額が生じる場合があります。(2)において同じ。)、災害等によるものは雑損控除するか又は雑損控除せずに必要経費とします(有利選択が必要です。)
(3)未収賃料等の必要経費算入(所法51②、所法64①)
事業的規模である場合は、回収不能額等の損失の金額は必要経費に算入しますが、事業的規模以外である場合はその損失の金額はなかったものとみなします。(収入を計上した年に遡ってなかったものとみなして計算するため、更正の請求が必要です。)
(4)貸倒引当金(個別評価)の必要経費算入(所法52①)
損失の見込額として貸倒引当金勘定に繰り入れた金額について、事業的規模である場合は必要経費に算入しますが、事業的規模以外である場合は必要経費に算入できません。(不動産所得は一括評価金銭債権の必要経は算入不可です。(所法52②))
(5)青色事業専従者給与及び事業専従者控除(所法57①③)
青色事業専従者給与又は事業専従者控除について、事業的規模である場合は必要経費に算入し又は必要経費とみなしますが、事業的規模以外である場合は必要経費に算入せず又は必要経費とみなしません。
(6)青色申告特別控除(租税特別措置法25の2③、所法67①、所法148①、所得税法施行規則57から62及び64、措置法施行規則9の6)
備え付ける帳簿等について一定の要件を満たした事業的規模である場合には青色申告特別控除を55万円(又は一定の要件を満たす場合には65万円)控除しますが、事業的規模以外である場合は青色申告特別控除を10万円控除します。
当事務所では不動産所得の確定申告のご依頼も承っておりますので、どうぞお気軽にお問合せください。
5070511
品川、目黒、五反田、不動前を拠点とする田代義典税理士事務所です。
相続税の申告は相続税専門の田代義典税理士事務所へご相談ください。